大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成4年(ネ)578号 判決

控訴人

株式会社よみうり

右代表者代表取締役

渡邉恒雄

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

被控訴人

高橋恒美

右訴訟代理人弁護士

伊神喜弘

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  被控訴人は、

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決を求めた。

第二事案の概要等

一  経緯等

被控訴人は、昭和五二年五月一日に原審脱退被告である株式会社中部讀賣新聞社(以下「中部讀賣」又は「会社」という。)に入社し、編集部整理課に配属され、以後同課員として(編集部整理課が編集局整理部に組織変更後は、同部員として)勤務していたが、中部讀賣は、昭和五八年二月一日に被控訴人に対し、編集局整理部から同局報道部報道課への配置転換を命令した(以下、右配置転換を「本件配転」、右命令を「本件配転命令」という。)。そこで、控(ママ)訴人は、昭和五八年三月一九日、中部讀賣を被告として、本件配転命令が、(1)被控訴人の職種を「整理」に限定した労働契約に違反し無効である、(2)労使間に成立した配置転換は本人の同意をもって実施するとの団体交渉確認事項(〈証拠略〉、労働協約の内容の一部をなすもので、以下においてはこれを「本件確認事項」という。)に違反し無効である、(3)不当労働行為に当たり無効である旨主張して、本件配転命令の無効確認を求める本件訴訟を提起した。

中部讀賣は、昭和六三年二月一日、営業の全部を控訴人に譲渡してそのころ解散し、控訴人が中部讀賣の訴訟上の地位を承継した。

原審は、被控訴人の右(2)の主張を認め、本訴請求を認容した。

二  主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決五枚目表五行目「報道部」を「報道部報道課」と、同一九枚目裏八行目から九行目にかけての「溶かい」を「容喙」と、同二〇枚目裏三行目「組合役員役員」を「組合役員」と、それぞれ改める。

(控訴人の主張)

1 本案前の主張

(一) 本訴請求は、中部讀賣の被控訴人に対する本件配転命令の無効確認を求めるものであるが、本件配転命令の内容は、編集局整理部から同局報道部報道課への異動を命じるものであるところ、中部讀賣は被控訴人を編集記者として採用したものであって、整理課員に限定して採用したものではないから、編集局内の異動に過ぎない本件配転命令は、同一職種内における担当職務の変更(担務替え)であって、労働契約の内容としての職種ないし職務までを変更しようとするものではない。そして、使用者は、労働契約により取得した指揮命令権の行使として労務の種類、態様、場所等を具体的に定めて労務提供を求めることができるのであって、労働の場所も、労働契約の履行過程において、使用者が指揮命令権により指定し得るものである。そして、その場合の労働の場所は、労働契約の内容を構成するものではないから、そこに労働者の権利又は法律上の利益の観念を容れる余地はない。そうすると、本件配転命令は、控(ママ)訴人に法律上の不利益を与えるものではないから、被控訴人の本訴請求は、訴えの利益ないし資格に欠けるものである。

(二) また、被控訴人は、中部讀賣の解散に際し、昭和六三年一月三一日同社を退社し、同年二月一日付けをもって控訴人に採用され、報道部報道課に配属されたものであって、中部讀賣と控訴人との間に雇用契約上の地位の承継の観念を容れる余地はないから、本訴請求につき控訴人には被告適格がない。

2 労働契約違反の主張について

仮に、右本案前の主張が理由がないとしても、本件配転命令の内容は、以下のとおり、労働契約の範囲内に止まるもので労働契約の基本的内容を変更するものではない。

すなわち、被控訴人が中部讀賣に入社するに際し、整理課員としてのみ労務提供するとの特約をしたことはなく、編集記者として採用されたものであり、編集局内における報道、整理、校閲等の職務は、同一職種における担当職務であって、その間に異職種の概念を容れる余地はないから、編集局内の異動は、労働契約の基本的な内容の変更を来すものではない。

なお、被控訴人は、中部讀賣の昭和五〇年三月の新聞創刊当時の社員募集における特殊事情として即戦力を重視する経験者採用であったこと、採用時の面接も整理課と報道課は別々に行われていた等を挙げ、採用に当たり職種の特定があったかのごとき主張をするが、仮に右のような事情があったとしても、労働契約の内容としての職種ないし職務を特定したものということにはならない。

また、新聞発行企業において編集部局内の異動は日常茶飯事であり、当該社員の同意等を要しないことは職場慣行であり、かつ、一般通念である。

したがって、本件配転命令は労働契約違反により無効となるものではない。

3 労働協約違反の主張について

本件配転命令は、以下(一)ないし(三)のとおり、本件確認事項に違反するものではなく、あるいは、以下(四)のとおり、本件確認事項の適用外であって、もとより有効である。しかるに、本件確認事項違反を理由として本件配転命令が無効であるとした原判決には、本件確認事項の成立経緯につき、組合側の運動論にのみ目を覆われ、これに対する会社側の対応についての正確な認識を欠いた結果、本件確認事項の解釈を誤った違法がある。

(一) 本件確認事項成立の経緯

(1) 訴外中部讀賣新聞労働組合(以下「組合」という。)は、昭和五六年九月一八日の秋闘第一回団交の席上で、会社に対し、同日付組合要求書に基づき、「配転(転勤を含む)を行う際には、発令予定日の一〇日前までに本人及び組合に提示し、組合と誠意をもって協議し、本人及び組合の同意の後に実施すること。」なる協約文案を提示した。

(2) 同年九月二九日の第二回団交において、会社は組合に対し、「会社が組合及び本人の同意なしには配転できないとする、組合の要求は、人事権への介入であるから応じられない。会社は組合には、原則として配転の一〇日前にこれを通知する。」旨回答した。

(3) 組合の近藤委員長は、同年一〇月二日の第三回団交の席上で、「配転問題の協議は保留にする」旨発言し、団体交渉の対象から一時この問題を棚上げすることを表明した。

(4) その後、同年一〇月八日第四回団交を経て、同年一〇月一四日第五回団交の結果、配転問題を除くその余の秋闘要求に関する交渉は、妥結した。

(5) 第五回団交終了後、近藤委員長は配転問題について質問し、これに対し、会社は、前記の立場から、「原則として一週間前に組合に通告し、原則として本人の同意をもって配転を実施するが、本人の不同意理由に合理性がなければ配転拒否は認められない。」旨回答した。

(6) その後、近藤委員長は、会社側の配転に関する右発言を明文化したい旨申し入れ、わら半紙に「配置転換は原則として一週間前に組合に通告、本人の同意をもって実施する。本人が不同意の場合、同意しなかったことを理由としては不利益扱いしない。」との文章を記載して持参したが、中部讀賣石曽根労務担当重役(以下「石曽根労担」という。)は、「これでは会社に人事権がないではないか。」と言って、「本人が不同意の場合、」と「同意しなかったことを理由として不利益扱いはしない。」との間に、「その不同意の理由を社が認めた場合は、」という文言を挿入して返したところ、近藤委員長もこれを了承し、本件確認事項(〈証拠略〉)が成立した。

(二) 本件確認事項の解釈

(1) 以上の経緯からも明らかなとおり、本件確認事項の前段の趣旨は、〈1〉会社は原則として一週間前に組合に配転を通告する、〈2〉会社は原則として本人の同意を得て配転を実施するというものであり、後段の趣旨は、〈3〉本人が不同意の場合であって、その理由を社が認めた場合は、同意しなかったことを理由として不利益扱いをしないというものであって、右〈2〉及び〈3〉は、本人の不同意の理由に合理性がなく、会社がこれを是認しないときは、会社は不同意のまま発令することもあり得ることと、いたずらに配転を拒否し、ために会社業務に支障を与えた者については、懲戒処分等の不利益扱いをすることがあり得ることを当然の前提としたものである。

(2) 被控訴人は、本件確認事項の解釈として、前段は〈1〉原則として一週間前に組合に通告すること、〈2〉本人の同意を要件とすることを定めたもので、〈2〉の要件について、本人は、いかに業務上の必要が高くても拒否することができ、その不同意理由は問わず、例外を認めない趣旨である旨の主張をする。しかしながら、会社は本来的に企業秩序を維持する権能を有し、その具体的権利の一つとして人事権を有するところ、本件確認事項成立の過程に徴しても明らかなとおり、団体交渉によってかかる入事権が否定される結果になることを会社が容認することはあり得ないのであって、被控訴人の右主張は到底認めることができない。このことは、会社の人事権に関する就業規則第一〇条、一一条(〈証拠略〉)、同二一条、二二条(〈証拠略〉)の効力を全面的かつ一律に停止するのに、本件確認事項のようなもので行われるということが通常あり得ないことに照らしても明らかである。

(3) 次に、被控訴人は、本件確認事項を控訴人主張のとおり解するならば、就業規則第二一条と同旨を定めたことになり、本件確認事項締結の意味がないなどと主張するが、本件確認事項は、前記のとおり、〈1〉組合に対する事前通告の手続を定めたほか、〈2〉本人の同意を原則とすることを明らかにすることにより、就業規則の無条件配転の定めに制約を課したものであって、その内容は、組合にとっても十二分な意義を有するものである。

(4) さらに、被控訴人は、本件確認事項後段の趣旨は、組合員が配転に同意せず原職に留まることになったときに、これに伴って仮にわずかな労働条件の変更があったとしても、組合員が、それに対してまで不利益変更としてクレームをつけない意であるなどと主張するが、配転に同意せず原職に留まることになったときに、労働条件が不利益に変更されることはあり得ないのであって、被控訴人の主張は全く失当であり、結局被控訴人の主張を前提とする限り本件確認事項の合理的解釈はなし得ないこととなる。

(5) また、原判決は、本件確認事項後段の趣旨を、配転に同意しない場合の報復措置を禁じたものと判示するが、失当である。すなわち、本件確認事項後段は、本人が同意しない場合、その理由に合理性がある場合は、会社において配転をなし得ないことはもとより、不利益取扱いを許さないとしたに止まるもので、それ以上に、いたずらに配転を拒否し、ために会社業務に支障を与えた者について、懲戒等に付さないことまでを定めたものではない。配転につき、不同意の理由に合理性なき場合は、会社が配転をなし得ることは当然の理であり、かく解して始めて会社の本来的権能が維持されるのである(組合も〈証拠略〉にもあるとおり会社の人事権を否定するものではない。)。

(6) したがって、本件確認事項がいかなる配転でも一律に本人の同意を要件としたところに意義がある旨の、被控訴人の主張を肯認した原判決は、失当である。

(三) 本件配転命令は本件確認事項に違反しない。

本件配転は、以下に述べるとおり、本件確認事項(〈証拠略〉)に沿って正当に実施されたもので、何らの違法もない。

(1) 会社は、昭和五八年二月一日付けの配転について、一週間前の一月二四日、組合に通告した。なお、被控訴人は、組合に対する通告義務の定めがあることから、事前の協議義務があるかのごとく主張するが、本件確認事項には、事前の協議を定めたものはなく、右主張は失当である。

(2) 会社において、被控訴人の同意を求めたところ、被控訴人は、「整理は天職だ。」とのみ主張して配転を拒否し、他に合理的理由を示さなかった。本件配転命令が労働契約内容を著しく不利益に変更するものでないにもかかわらず、右理由による配転の拒否は、合理的理由に欠けるものである。なお、本訴において、被控訴人は、本件配転により組合活動に支障を来し、組合弱体化に通じるなどと主張するが、従前も組合委員長が報道部から選出されたことがあり、これによって特段組合活動に支障を来したことはないのであって、被控訴人の主張は理由がない。

(3) そこで、会社は本件確認事項の趣旨に従い、被控訴人の配転拒否を正当な拒否とは認めず、被控訴人に対し、本件配転命令を発令した。

(4) したがって、被控訴人の本件配転拒否理由には何ら合理的理由なき以上、被控訴人の同意を得ることなくしてした本件配転命令は、本件確認事項に違反するものではなく、もとより有効である。

(四) 本件配転命令に同意は不要である。

のみならず、編集業務内の報道と整理は、いずれも同一職種に属するものであって、その間の異動である本件配転命令は、単なる担当職務の変更に過ぎないもので、職種の変更でないことはもとより、同意の必要ないわゆる配転にも当たらないものであって、もともと、本件確認事項の適用外である。

(五) 結論

以上のとおり、本件配転命令が本件確認事項違反により無効であるとす被(ママ)控訴人の主張は理由がない。

4 不当労働行為の主張について

(一) 本件配転命令が被控訴人及び組合に対する不当労働行為であるから無効であるとする被控訴人の主張は争う。

(1) 本件配転命令は、後記(二)において述べるとおり業務上の必要性に基づいてなしたものであり、また、本件配転命令当時被控訴人は組合役員ではなかったから、これによって、被控訴自身あるいは組合の組合活動に対し、特段の支障を与えるものではなく、また、会社には、不当労働行為をする動機もなく、被控訴人の組合活動に対する報復あるいは見せしめ人事としてなしたものではないから、本件配転命令は不当労働行為ではない。

(2) 被控訴人は、整理から報道への異動は異例であるかのごとくいうが、整理あるいは校閲から報道への異動は、新聞社では一般に日常行われていることであり、特段異例のことではない。

また、会社は、本件配転内示の後、組合からの団体交渉の申し入れについては、交渉事項をめぐり事務折衝を重ねてきたものであり、ようやく二月一三日に至り交渉事項について整理ができたので、同月一五日に団交を開催しており、徒に団交を拒否したことはない。

被控訴人は、被控訴人と組合が本件配転は組合弱体化を意図したものであるとして反対の意思を表明していたと主張するが、前述のとおり、本件配転命令により特段組合活動に重大な支障を生ずべき事情はないのであるから、会社が組合の一方的な主張を顧慮せず、本件配転命令の正当性についての主張を述べたとしても何ら責められるべき理由は毫も存しない。

(二) 本件配転命令の業務上の必要性について

中部讀賣においては、被控訴人が編集局内で肩書のない部員として最年長となったことから、被控訴人を管理職に昇進させるについては、報道の仕事を経験させた後、整理主任若しくは報道主任にするとの方針であったのであり、また、被控訴人が整理部員としての仕事に行き詰まっているように見えたことから、報道の仕事を通じて担当職務の見直しをさせる必要があると判断していた。そこで、中部讀賣は、会社にとって有為な人材を育成するという人事上の必要から、本件配転を実施したものである。なお、中部讀賣が本件配転を行うに当たり、被控訴人以外にそれを代替しえないなどの理由を必要とするものではなく、右以上に配転の必要性を特定する必要はない。

(三) したがって、本件配転が不当労働行為であるとの被控訴人の主張は理由がない。

5 異議なき承諾の主張について

仮に、以上の主張がいずれも理由がないとしても、被控訴人は昭和六三年二月一日付けで控訴人に採用されるに際し、控訴人の報道部報道課に勤務することを承諾することにより、元職場に復帰することを求める請求権を失ったものであるから、本訴請求は棄却されるべきである。

(被控訴人の主張)

1 本案前の主張に対する反論

(一) 控訴人の主張1(一)は争う。配転とは「同一企業内における労働者の職種、職務内容、勤務場所のいずれか又は全てを、長期にわたって変更するもの」をいうのであるから、職務の変更も配転の概念に入ることは疑いのない事実である。

(二) 同(二)の主張は争う。中部讀賣の控訴人への営業譲渡により、中部讀賣の被控訴人に対する雇用契約上の地位並びに従前の労働協定は控訴人に承継されているものである。

被控訴人は、その前後を通じて本訴請求を維持していたのであり、被控訴人の報道部報道課への勤務も異議を留めてのものである。

2 控訴人の主張2は争う。

控訴人は、「新聞発行企業において編集部内の異動は日常茶飯事であり、当該社員の同意等を要しないことは職場慣行であり、かつ、一般通念である。」というが、中部讀賣においては、新卒者以外の者で整理から報道への異動は極めて異例であり、本件配転命令までその例がなかった。

3 控訴人の主張3は争う。

(一) 本件確認事項成立の経緯について、控訴人の主張するところは事実ではない。控訴人は、本人の同意をもって配転する旨約していたものであり、右同意に控訴人主張のような留保を付けた経緯はない。

(二) 本件確認事項の解釈についての控訴人の主張は争う。控訴人の解釈は、文理解釈としても無理である。

(三) 本件配転命令が本件確認事項に違反しないとの控訴人の主張は争う。

(四) 本件配転命令が本件確認事項適用の対象外であるとの控訴人の主張を(ママ)争う。

4 本件配転命令は、以下のとおり、被控訴人及び組合に対する不当労働行為である。

(一) 会社は、従前から、被控訴人及び組合の組合活動を嫌悪し、組合の労使協調化、御用組合化を企図していたものであり、その一環として本件配転を実施したものである。すなわち、会社は、組合第五期役員の大量辞任、権利停止により従来から組合執行部を担ってきた、「闘う組合活動家」の多数が組合内での発言力、影響力を著しく弱めている時期に乗じて、組合を御用組合化するために、被控訴人の組合活動の制約と組織への影響力の減殺を狙って本件配転を行ったものである。これは、組合の組織弱体化を狙った支配介入行為であるとともに、被控訴人に対する不利益な取扱いでもある。さらに、本件配転命令は、被控訴人の過去の組合活動に対する報復ないし見せしめであるから、不当労働行為に該当する。

本件配転命令が不当労働行為であることは、〈1〉会社は、後記(二)のとおり、組合の労使協調化、御用組合化を企図し、組合の運営に支配介入してきたもので、これとは反対に労使対決を標榜して原則的な組合活動をしてきた被控訴人に対して、不当労働行為をする動機があること、〈2〉本件配転命令は被控訴人の組合活動の制約と組織への影響力の減殺をもたらすものであること、〈3〉配転に至るまでの経過及び理由が不明確であること、〈4〉本件配転命令が整理から報道への異動という極めて異例なものであること、〈5〉本件配転命令が、被控訴人の同意を得ないで、強行実施され、また、会社は、これについて組合との団交を拒絶し続けたこと、〈6〉本件配転命令は、小川配転と類似していること、等からしても、明らかである。

(二) なお、会社に右(一)〈1〉の不当労働行為の動機が存することは、会社が、本件配転命令に至るまでに、以下のとおり不当労働行為を繰り返してきた経緯からも認められるところである。

(1) 被控訴人は、昭和五三年二月ころの組合結成の準備段階から昭和五三年一〇月一〇日の組合結成以来、組合の中心となって活動してきたものであり、しかも、その活動は、労使協調・御用組合化を排し、労使対決的な団結結成を目標とする原則的なものであり、整理課職場は組合結成の準備の中核的な職場であり、被控訴人は、整理課職場に属し、組合結成の準備活動の主力メンバーであり、組合結成後も被控訴人は、原則的な組合活動の中心的メンバーであり、組合活動の中核職場であり続けた整理課職場に属していた。

他方、会社は、組合に対し、当初より嫌悪し、しかも第二組合結成の方法によるのでなく、組合を変質させ、労使協調・御用組合化することを意図し、組合の組織拡大を容認・黙認する一方で、被控訴人に代表される原則的な組合活動をする者を排除するとともに、会社の息のかかった組合員を組合役員に送り込むなどして組合の活動内容を変質させるべく支配介入をしてきたが、その中で、会社は、組合及び被控訴人に対し次のとおり支配介入等の不当労働行為をしてきた。

〈1〉 組合の上部団体との接触や加盟への活動に対し、昭和五三年一〇月一二日、藤野整理課長が組合書記長になった近藤に対し、上部団体との接触や加盟への活動に嫌悪感を表して組合の運営に介入し、昭和五四年五月九日、組合の招きに応じて訪れた上部団体となるべき組合の役員に対し構内に立ち入ることを拒否して、組合と上部団体との接触を妨害したこと。

〈2〉 昭和五五年一一月一二日第三期冬季一時金闘争中のビラ配付行動計画に対し、会社は、便宜供与剥奪を示唆し、恫喝によってビラ配付を阻止しようとしたこと。

〈3〉 昭和五六年春の第三期春闘の四月一日、スト権投票入りを控え、藤野整理部長は組合の近藤委員長にスト権確立を断念するよう迫って、介入し、同年四月一五日、会社は(証拠略)の声明を掲示して、スト権投票を批判し、団交での組合側発言や組合活動に対し恫喝を加えることによって組合員の動揺を誘い、その活動を牽制しようとしたこと。

〈4〉 昭和五六年の組合の第四期役員選挙に際し、会社は、近藤・高橋体制を阻止すべく、委員長候補に近藤以外の者の担ぎ出しを企図したり、被控訴人の副書記長立候補を断念させるべく、被控訴人やその妻に働きかけるなどして、組合の役員人事に介入した。なお、第四期役員選挙の最中である昭和五六年七月二九日、組合結成の中心メンバーの一人で初代執行委員長であった小川浩司を同年八月一日付けで編集局報道部連絡係担当から、突然、全く異職種の事業本部企画部への配転を命じたが、右配転は小川の組合活動に対する報復であり、不当労働行為であること。

〈5〉 昭和五六年の年末一時金交渉中の同年一一月二八日の全面ストを控えた同月二五日に、会社は、(証拠略)を発して組合活動を牽制し、組合員に対して暗にスト中止を働きかけ、同月二六日、会社側団交委員の一人である林正彦広告局長が、組合の闘争委員である広告外勤の小林隆一と広告内勤の宇津野明彦に対し、同月二七日の組合の闘争委員会においてストに反対するように働きかけ、スト潰しの介入を行い、同日、藤野整理部長は、近藤執行委員長を呼び出し、ストを止めるように説得し、同月二八日辰野悟楼発送部長が、組合副委員長土井誠泰に対し、ストを止めるように説得したこと。

〈6〉 昭和五七年の春闘において、同年四月六日の第五回団交で、会社は、この団交での回答を「最終回答」と称して組合の質問を一切受け付けず、一方的に交渉を打ち切り、その後、同月七、八、九日の連日、組合からの団交開催申し入れに対し拒否を続けたこと。

〈7〉 昭和五七年の夏の一時金闘争の交渉中の同年六月二日、会社は、掲示板に腕章着用は就業時間中の組合活動であると判断するとの「腕章着用に関する会社の見解」を張り出し、組合の活動を牽制し、動揺を狙ったこと。

〈8〉 昭和五七年の第五期の役員選挙にあたり、会社は、会社の意向を受けた労使協調派の候補者を担ぎ出し、藤野整理部長らが、組合員に対し、右候補者に対する投票依頼をしたこと。

〈9〉 第五期役員選挙は、従前からの戦うメンバーが当選したが、第三期、第四期の会計の不正問題が判明して、昭和五七年八月二七日付けで執行委員長以下七名(執行委員の被控訴人を含む。)が辞任したが、昭和五七年九月一日、藤野整理部長は、近藤峰夫に対し、「高橋は辞任すべきじゃないと言ったんだろう。」と不快感をあらわにして、組合の第五期役員人事に不当に容喙したこと。

(2) また、会社は、被控訴人自身に対しても次のとおり不当労働行為をした。なお、これらは、被控訴人に対する不当労働行為であると同時に、組合に対する不当労働行為でもある。

〈1〉 昭和五六年の第四期役員選挙に際して、藤野整理部長が、被控訴人が役員に選出されることを阻止する工作をし、組合人事に口出しをし、被控訴人に対しては、入院中の被控訴人を見舞って「体を治すのが先決。次の役員選挙には出馬しないよう」勧め、その後、被控訴人の副書記長立候補を知って被控訴人の妻に電話して立候補の取り止めを説得するように働きかけたこと。

〈2〉 昭和五七年の第五期役員選挙において、藤野整理部長らは被控訴人が書記長に立候補すると予想し、その対抗馬を担ぎ出し、会社は、被控訴人自身の選挙活動を封じ、全体の選挙活動の総括的立場にあった被控訴人の活動を妨害しようとして、被控訴人を役員選挙期間中の同年七月二〇日から同月二六日まで東京に出張させたこと。

5 控訴人の主張5は争う。

被控訴人は、中部讀賣の控訴人に対する営業譲渡の前後を通じて本訴請求を維持しており、控訴人の報道部報道課への勤務も被控訴人が異議を留めてなしたものであることは明らかであるから、右主張は失当である。

第三証拠関係

原審及び当審の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  控訴人の本案前の主張について

当裁判所も、控訴人の本案前の主張はいずれも理由がないと判断する。その理由は、原判決が理由一において説示するとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決四四枚目裏九行目「採られことも」を「採られたことも」と、同四六枚目表一行目「当裁判所に顕著な事実である。」を「本件記録上明らかである。」とそれぞれ改める。

二  被控訴人の労働契約違反の主張について

1  請求原因2(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  まず、被控訴人は、中部讀賣に入社するに際し、中部讀賣の整理課員としてのみ労務提供する旨の特約(職種ないし職務を特定した合意)をしたと主張するので検討する。

右争いのない事実に、成立に争いのない(証拠・人証略)の結果に弁論の全趣旨を総合すると、

(一) 被控訴人は、最終学歴が法政大学社会学科であるが、昭和三九年四月岐阜日日新聞社に入社し整理部に配属されてから、昭和四九年三月に報道部へ配置転換になるまで、整理の仕事をしていたが、その後、昭和五一年五月に同社を私事都合により退社した。そして、昭和五二年三月、中部讀賣に応募し採用された。

(二) 中部讀賣は、昭和五〇年三月に中部讀賣新聞を創刊したが、社内体制の整備を図るため、各分野で即戦力を重視する経験者の募集を行っており、被控訴人が応募した昭和五二年三月時における募集と採用面接も、整理と報道とは別々に行われていた。

(三) 中部讀賣は被控訴人を編集部員として採用するに当たり、当初の担当職務を辞令上で「編集部整理課」と指定した。しかし、中部讀賣は、採用の前後を通じて、採用の条件として、職種の特定、すなわち、被控訴人が整理課員としてのみ労務を提供すれば足りる旨を明示した事実はなく、他方、被控訴人も、その点について会社側に確認したことはなかった。

(四) 被控訴人は、昭和五二年五月一日から本件配転時まで五年九月間、中部讀賣の編集部整理課員(編集部整理課が編集局整理部に組織変更された後は、整理部員)として勤務した。

以上のとおり認めることができる。

右認定事実によれば、被控訴人は中部讀賣に採用されるに当たり、編集部整理課を当初の勤務場所として指定されたが、職種を「整理」に特定して採用することまでの明示の意思表示はなかったというのであるから、それだけでは、中部讀賣が当面整理を担当できる人材を求めていたことを認めることはできても、それ以上に、被控訴人と中部讀賣の間に、被控訴人が在職中は中部讀賣の整理課員としてのみ労務提供する旨特約したとまでは認めることができない。

次に、被控訴人は、被控訴人と中部讀賣間の労働契約締結時において、被控訴人を「整理」以外には配属しないとの明確な約束がなかったとしても、採用時の経緯及び採用後の勤務形態の継続等に関する前記認定の事情の下においては、当事者の意思解釈としては、被控訴人主張のように、当事者間に職種を「整理」に限定する意思があったと解するべきである旨主張するが、前記認定の事実だけでは、右主張のように解するには十分ではない。そして、本件全証拠によっても、被控訴人主張の特約の成立を窺わせるような事情を他に認めることはできない。

3  したがって、中部讀賣が被控訴人に編集局整理部から同局報道部報道課へ配転を命じた本件配転命令が、労働契約に違反して無効であるとの被控訴人の主張は、採用できない。

三  被控訴人の労働協約違反の主張について

被控訴人は、本件確認事項は、中部讀賣においては、配置転換は本人の同意をもって実施し、本人が不同意の場合には実施しないことを取り決めたものであり、被控訴人は本件配転命令に同意していないのであるから、本件配転命令は本件確認事項に違反し、無効である旨主張するので、この点について検討する。

1  そこで、まず、本件確認事項(〈証拠略〉)の成立までの経緯を見るに、原本の存在及び成立に争いのない(証拠・人証略)を総合すると、本件確認事項(〈証拠略〉)の成立までの経緯につき、以下の事実が認められる。

(一) 中部讀賣が昭和五六年四月一五日付けで報道部報道課の村田博明に対し刈谷通信部への配転を命じたのに対し、村田が、組合の当時の委員長近藤峰夫に不満を述べたことがあり、また、中部讀賣が同年八月一日付けで報道部連絡係の小川浩司に対し事業本部企画課への配転を命じたのに対して、小川が配転命令を保留してほしいと申し入れたのに受け入れられなかったことがあったことから、組合は、昭和五六年秋闘において、組合員の権利擁護の立場から、配転協約の締結を要求項目の一つとして取り上げた。配転の問題は、組合結成以来の課題であったが、右両名の配転を契機として、第四期の組合幹部であった近藤、被控訴人らにおいて、配転について、労働者の意思を優先して本人が納得した配転が保証される必要性を強く感じ、第四期(昭和五六年)の秋闘の要求の中に配置転換の協約を盛り込んでいこうと考えるようになり、組合は、第四期の役員体制(委員長近藤峰夫、被控訴人は副書記長)のもとに、同年八月二六日から秋闘の要求作りに取り掛かり、同年九月一日の代議員会で、執行部から「配転に関する事前同意制」が要求の柱としての五項目のうちの一つとして提示され検討された。その後、同月一六日の代議員会において各職場集会の意見が集約され、第四期の秋闘要求が決定された。

(二) そこで、組合は、昭和五六年九月一八日の昭和五六年度秋闘第一回団交の席上で、会社に対し、同日付組合要求書に基づき、「配転(転勤を含む)を行う際には、発令予定日の一〇日前までに、本人及び組合に提示し、組合と誠意をもって協議し、本人及び組合の同意の後に実施すること。」なる協約文案を提示した。

(三) 同年九月二九日の第二回団交において、会社は組合に対し、「会社が組合及び本人の同意なしには配転できないとする、組合の要求は、人事権への介入であるから応じられない。会社は組合には、原則として配転の一〇日前にこれを通知する。」旨回答した。

(四) 組合の近藤委員長は、同年一〇月二日の第三回団交の席上で、「配転問題の協議は保留にする」旨発言し、団体交渉の対象からこの問題を一時棚上げすることを表明した。

(五) その後、同年一〇月八日第四回団交を経て、同年一〇月一四日第五回団交の結果、配転問題を除いて、その余の秋闘要求に関する交渉は、妥結した。

(六) 第五回団交終了後、会社は、配転問題についての近藤委員長からの質問に対し、会社は、会社に人事権があるとの基本的立場を堅持しつつ、「原則として一週間前に組合に通告し、原則として本人の同意をもって配転を実施するが、本人の不同意理由に合理性がなければ、本人の配転拒否は認められない。」旨回答した。

(七) その後、近藤委員長は、会社側の配転に関する右発言を明文化したい旨申入れ、わら半紙に「配置転換は原則として一週間前に組合に通告、本人の同意をもって実施する。本人が不同意の場合、同意しなかったことを理由としては不利益扱いしない。」との文章を記載して持参したが、中部讀賣の石曽根労担は、「これでは会社に人事権がないではないか。」と言って、「本人が不同意の場合、」と「同意しなかったことを理由として不利益扱いはしない。」との間に、「その不同意の理由を社が認めた場合は、」という文言を挿入して返したところ、近藤委員長もこれを了承し、本件確認事項(〈証拠略〉)が成立した。

(八) このようにして、本件確認条項の文言は、「配置転換は原則として一週間前に組合に通告、本人の同意をもって実施する。本人が不同意の場合、その不同意の理由を社が認めた場合は、同意しなかったことを理由として不利益扱いはしない。」と確定することとなった。

以上のとおり認めることができる。

右認定事実によれば、組合側が、配転については、本人の同意がなければいかなる場合も配転しないことなどを約束するように会社側に要求したのに対し、会社側は、右要求は会社の人事権を侵すものだとして、一貫してこれを拒否する意思を明らかにしていたものということができる。原審(人証略)、原審における被控訴人本人尋問の結果中の右認定に反する部分は容易に措信することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  本件確認事項の解釈

(一) 以上に見た本件確認事項の成立の経緯に鑑みると、本件確認事項の前段の趣旨は、〈1〉会社は原則として一週間前に組合に配転を通告する、〈2〉会社は原則として本人の同意を得て配転を実施するというものであり、後段の趣旨は、〈3〉本人が不同意の場合であって、その理由を会社が合理的であると認めた場合は、同意しなかったことを理由として不利益扱いをしないというものであって、右〈2〉及び〈3〉は、本人の不同意の理由に合理性がなく、会社がこれを是認し得ないときは、会社は不同意のまま発令し得る権限を留保するとともに、本人の不同意の理由に合理性がなく、徒に配転を拒否したために会社業務に支障を与えた者については、懲戒処分等の不利益扱いをすることがあり得ることも前提としているものと解するのが相当である。

(二) 被控訴人は、本件確認事項の前段の「原則として」は、前段前半部分の「通告」にのみかかり、前段後半部分の「本人の同意」にはかからず、後段は、前段において要件とされた「本人の同意」がない場合における不利益扱いを規制するものと解すべきである旨主張するが、本件確認事項の成立の経緯に関する前記認定の事実関係を総合して検討すると、そのようには解せられないことは、右に説示したとおりであるから、右主張は採用できない。

3  本件配転命令の効力

(一) 原本の存在及び成立につき争いのない(証拠・人証略)を総合すると、本件配転命令の発令に関して、以下の事実が認められる。

(1) 会社は、機構改革を伴うかなりの人数の人事異動を計画し、その一環として、被控訴人を編集局整理部から同局報道部報道課に異動(本件配転)させることとし、被控訴人に対し、同年一月二〇日に被控訴人に本件配転の内示をして、その同意を求めたところ、被控訴人は、これに対し同意しないことを明らかにしたが、その理由としては、〈1〉整理は天職であることと、〈2〉本件配転命令は不当労働行為である、との二点であり、他の理由を示したことはなかった。

(2) 会社は、本件確認事項に基づき、本件配転期日の一週間前の一月二四日、本件配転を組合に通告した。

そして、会社と組合との間において、被控訴人の配転問題につき、同月二四日、二五日、二七日、二九日事務折衝が行われ、組合からは団体交渉の要求も出されたが、会社は個別人事に関することで、団体交渉事項ではないとして、配転日前の団体交渉には応じなかった。

(3) 会社は、その後も被控訴人に対する説得を続けたが、被控訴人は、翻意することなく経過した。

(4) 会社は、同年二月一日、被控訴人の配転拒否には正当な理由がないとの見解のもとに、被控訴人に対し、本件配転命令を発令した。

以上のとおり認めることができる。

(二) そこで、被控訴人の本件配転命令の拒否理由に合理性があるかを判断するのに、前記認定事実によれば、本件配転は、本社内の異動であって、被控訴人の通勤時間に影響を与えるようなものではなく、また、仕事の内容の変更を伴う異動ではあるが、異動後における労働条件が以前より加重されるといった、被控訴人に著しい不利益を与えるようなものでもないこと(深夜勤務の時間はかえって減少する。)が認められるのに対し、被控訴人の配転拒否理由の一つである「整理は天職である」との主張は、被控訴人の主観的な職業観の表白とは言えても、客観的に見て、配転拒否を合理化できるような理由とは言えず(なお、被控訴人は、本訴において、被控訴人採用時において、中部讀賣との間に、中部讀賣の整理課員としてのみ労務提供し、他に異動しない旨の特約の存在を主張するに至ったが、右主張が認められないことは、前記のとおりである。)、また、もう一つの配転拒否の理由である不当労働行為の主張は、これを認めるに足りないことは後記説示のとおりである。

そうすると、被控訴人の右各理由による配転の拒否は、合理的理由に欠けるものといわなければならない。

(三) そうすると、本件配転は、本件確認事項に何ら違反するものではないから、本件確認事項に違反することを理由として、本件配転の無効をいう被控訴人の主張は、その前提を欠くというべきである。

(四) なお、被控訴人は、本件確認事項に組合に対する通告義務の定めがあることから、中部讀賣には組合との事前の協議義務があるかのごとく主張するが、本件確認事項には、事前の協議を定めたものはなく、右主張は失当である。

四  被控訴人の不当労働行為の主張について

1  請求原因2(一)(二)の事実が当事者間に争いがないことは、前記のとおりであり、本件配転命令の発令前後の状況は、前記三3(一)に認定のとおりである。

2  本件配転の業務上の必要性について

一般に、企業においては、人材の育成や職場の沈滞化の防止等の見地から人事交流の必要があるとされ、それが実行されていることは公知の事実であるが、(人証略)の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、新聞発行企業においても、人事交流の必要性は大きいとされ、特に報道と整理との間においては比較的頻繁に交流の行われていること、本件配転は、中部讀賣の機構改革に伴う比較的人数の多い異動の一環として行われたものであること、被控訴人は、整理部(整理課)に配属されてから五年余を経過し、整理部における在職期間が長期となった上、編集局内で平の職員としては被控訴人が最年長であって、管理職としての処遇を考えなければならない時期となっていたこと、しかし、同人を将来管理職として処遇するためには、一度報道の仕事を経験することが必要とされていたこと、以上の事実が認められる。

そうすると、被控訴人につき配転を行う人事上の必要はあったということができる。

3  そこで、本件配転命令が被控訴人及び組合に対する不当労働行為に当たるとの被控訴人の主張について、検討する。

(一) まず、原本の存在及び成立に争いのない(証拠・人証略)の結果を総合すると、

(1) 組合の結成については、昭和五三年二月ころから、整理課整理係の被控訴人、近藤峰夫、山口裕一、整理課校閲係の小川浩司、村岡俊久、活版課の田中春行、滝守らが組合結成の準備をし、昭和五三年一〇月一〇日に七〇数名が出席して組合結成大会を開いたもので、整理課職場が組合結成の準備の中核的職場になり、被控訴人はその職場において、組合結成の準備活動の主力ないし中心メンバーであった。

(2) 被控訴人は、組合活動において、第一期、第二期は執行委員を、第三期、第四期は副書記長を勤め、第五期は執行委員に当選した。ところが、第三期、第四期の会計の不正問題が発覚したため、その責任問題により、執行委員長らとともに昭和五七年八月二七日に辞任することになった上、組合から、同年九月二〇日から一か月間、組合員としての権利を停止する旨の処分を受けた。したがって、本件配転命令が発令された昭和五八年二月一日当時は、右辞任の後であり、組合の役員とはなっていなかった。

以上のとおり、認めることができる。

そして、被控訴人ら組合役員が右のとおり辞任せざるを得なかったことが、会社の組合の弱体化を目的とした策謀の結果であることを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人は、本件配転命令の当時には、組合の役員をしてはいなかったのであるから、本件配転命令が、まず、組合の組合活動自体に打撃を与え、又はこれを抑制する目的でなされたものとはいえないことは明らかである。

(二) この点につき、被控訴人は、組合第五期役員の大量辞任、権利停止により従来から組合執行部を担ってきた組合活動家の多数が組合内での発言力、影響力を著しく弱めている時期に乗じて、会社は、組合を御用組合化するために、被控訴人の組合活動の制約と組織への影響力の減殺を狙って本件配転を行ったものである旨主張するが、被控訴人の原審及び当審における本人尋問の結果によっても、本件配転により、被控訴人の一組合員としての組合活動に支障を来したとか、それにより被控訴人の組合組織への働き掛けに支障を来したことを認めるには足りず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

かえって、前記認定事実に(人証略)の各証言を総合すると、本件配転命令は、同じ編集局内の整理部から報道部報道課への本社内での異動であって、その態様から判断して、被控訴人の行う組合活動ないしは組合組織に対する働き掛けを(ママ)ついて、著しい制約となるものでなく、また、従前、組合の執行委員長が報道部から選出されたこともあったが、そのときも、それによって特段組合活動に支障を来したことはないことに照らしても、被控訴人主張のような支障は生じることはないものと認められる。

そうすると、本件配転命令に被控訴人主張のような目的の存在を認めることは、そもそも困難であるといわざるを得ない。

(三) 次に、被控訴人は、本件配転命令は、被控訴人の過去の組合活動に対する報復ないし見せしめであるから不当労働行為である旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件配転命令は、その内容としては、同じ編集局内の整理部から報道部報道課への本社内での異動であって、通勤に要する時間に影響を与えるものではなく、また、異動後の職場の労働条件は従前の職場のそれと比べて加重されるというものではなく、本件配転によって、被控訴人に著しい不利益を与えるとか、労働契約の内容を著しく不利益に変更するとの事情も認められないところであることを考慮すると、それ自体として、本件配転命令が被控訴人に対する不利益処分であるとか、報復ないし見せしめであると、認めるのは困難であるだけでなく、会社が本件配転命令を被控訴人の過去の組合活動に対する報復ないし見せしめの目的をもって実施したものであることを直接認めるべき証拠もない。

(四) なお、被控訴人は、会社が、組合結成当初から、組合の御用組合化を企図し、組合に対しては支配介入行為、被控訴人に対しては不当労働行為を繰り返した経緯がある旨るる主張した上、そのような経緯からすると、労使協調路線を排し、労使対決を標榜して原則的な組合活動をしてきた被控訴人に対して、会社が、本件配転においても、不当労働行為をする動機があると認めるべきである旨主張するが、組合又は被控訴人と会社との間において、過去に被控訴人主張のような外形的出来事があったとしても、その後における事情の変更の存在、本件配転が被控訴人に対して著しく不利益なものとはいえないことなどの本件配転命令の態様、その他前記認定の事情の下においては、被控訴人主張の過去の経緯だけから、今回の本件配転命令が被控訴人主張のような動機をもって行われたと断ずることはできない。

4  以上によれば、本件配転命令が不当労働行為であるとする控(ママ)訴人の主張は理由がない。

第五結論

よって、その余の点につき判断するまでもなく、本件配転命令は有効であって、被控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであるので、右と結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 菅英昇 裁判官 筏津順子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例